世界有数の豪雪地帯を有する日本列島。北海道や東北地方、北陸地方などではすでに多くの積雪が報じられています。その地方に住む人々ではない、ほかの地域から旅行やウインタースポーツなどで訪れる人にとっては、クルマの冬対策は一歩間違えば命取りになる重要なこと。特にタイヤに関しては、規制が出てしまうと通行できない場合も考えられるほどの死活問題になります。
そこで今回は、タイヤやワイパーなどの基本的なクルマの冬装備について解説します。間違ったアイテムを選ばないよう、参考にしてください。
■スタッドレスタイヤが登場した背景
一般的な冬タイヤといえば、今の日本では「スタッドレスタイヤ」が主流。しかし、その昔スタッドが付いた「スパイクタイヤ」なるものが普通に販売されていました。一方で、最近では「オールシーズンタイヤ」などほかの選択肢も増えてきている、冬タイヤ事情。チェーンも含め、どれが一番ベストな選択肢になるのでしょう。
まずは冬用タイヤの種類について知っておきましょう。圧雪や凍結などさまざまな路面での使用が想定される、冬用タイヤ。おもな種類別に分けると、以下のように区分されます。
・スパイク(スタッド)タイヤ
・スタッドレスタイヤ
・オールシーズンタイヤ
・タイヤチェーン(スノーソック等も含む)
これらのうち、スパイクタイヤだけは日本国内で生産されておらず、装着して公道走行することは法律で禁止されています。1990年に「スパイクタイヤ粉じん防止法」が制定されるまでは、日本国内でも普通に使用されていましたが、タイヤの表面に打ちこまれたスタッド(鋲)が舗装路面を削り、発生する粉じんが公害化したため禁止になりました。今では一般的になったスタッドレスタイヤが普及したのは、このような背景があったのです。
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スタッドが路面の雪や氷に直接刺さり、圧倒的なグリップ力を得ることができる点がスパイクタイヤの一番のメリット。しかしながら、緊急車両や道路事業者など一部を除き、公道での使用は禁止されています。もし装着するとしたら私有地などの走行のみで、購入も海外から輸入するしか方法はありません。一方で軽車両への装着は禁止されていないため、一般の人がスパイクタイヤを味わうには自転車に履かせることが一番身近かもしれません。
■スタッドレスタイヤの優位性
このスパイクタイヤの代わりに普及したのが、現在のスタッドレスタイヤです。文字通り、スタッドを省いたウインタータイヤであり、タイヤ表面のトレッド面に細かな溝の加工が施されていることが特徴です。サマータイヤ(通常のタイヤ)同様100%ゴム製ですので、基本的には積雪路/凍結路/ドライ舗装路/ウェット舗装路のどの路面でも走行可能。現在ではもっとも一般的なスノータイヤとなっています。冬用タイヤ装着義務の道路規制にも、もちろん対応できます。
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サマータイヤと比べ、トレッド面のブロックが高くて柔らかく、細かな溝(サイプ)が多く刻まれているスタッドレスタイヤの構造。路面のミューが低くなる(滑りやすくなる)場所で適切なグリップ力を得るための特徴ですが、逆に通常の舗装路面ではサマータイヤより性能が落ちてしまうことがデメリットとなります。
スタッドレスタイヤの柔らかいブロックと多くの溝は、通常の舗装路面では転がり抵抗が大きくなるため、燃費は悪くなります。加えてタイヤ自体のグリップ力も低下するため、走行時のスピードは控えめにしなければなりません。ブレーキの制動力も弱まると考えましょう。これらの理由から、雪の降らない時期はサマータイヤに履き替えることが必須とされているのです。
スタッドレスタイヤの最大の利点は、凍結路、圧雪路、舗装路がすべて走行できる点です。デメリットもありますが、交換したら冬のシーズン中はずっと使えてしまうことは大きなメリットとなるでしょう。
■これでも十分なのでは? オールシーズンタイヤ
一方で、昨今シェアを急激に伸ばしているタイヤも見逃せません。それがオールシーズンタイヤです。その名の通り、タイヤを履き替えることなく1年を通して使えるタイヤで、性能としてはサマータイヤとスタッドレスの中間くらいと考えていいでしょう。
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スタッドレスタイヤとの1番の違いは、氷上や凍結路は走行NGだということでしょう。M&S(マッド&スノー)タイヤと同等の性能なので、雪上や圧雪路ではグリップを得ることができますが、さらに滑りやすい凍結した路面では滑ってしまいます。ブロック表面にサイプが施されていない構造ですので、こればかりは仕方がありません。その代わり、通常の舗装路ではスタッドレスよりもサマータイヤに近い感覚で走行できる点がメリットとなります。
太平洋側の地域でときどき見られるような急な積雪でしたら、オールシーズンタイヤでことは足りてしまいます。豪雪地帯に行くことがなく、スタッドレスタイヤまで必要がないユーザーにとっては、季節ごとのタイヤ交換も不要ですのでメリットの大きいタイヤだといえるでしょう。
M&Sタイヤという点では、SUVに装着されるようなオールテレインタイヤも同様の性能といえます。タイヤのサイドウォール表記にM&Sと書いてあれば、雪道は走れるのですが凍結路はNGです。冬タイヤ規制への対応には、オールシーズンタイヤの中でも「スノーフレークマーク」が付いた厳冬期対応のタイヤでないと走行ができない点も忘れないようにしておきましょう。豪雪地帯など、雪が深く積もる地域に行く場合はタイヤチェーンの携行が必須といえます。
■多彩なタイヤチェーン
スタッドレスタイヤを履いていても、チェーンが強要される場面が絶対にないとは限りません。代表する例は、道路規制で「チェーン規制」が出たときです。チェーン規制が出た場合、スタッドレスタイヤでも通行することはできません。積雪する地方へ出かけるようでしたら、必ずチェーンは携行するようにしましょう。
タイヤに直接巻きつけるタイヤチェーンは、タイヤとボディの間に一定のクリアランスが必要となります。一部輸入車や、タイヤハウスに隙間のないような車高の低いクルマでは、装着できない場合もあります。所有するクルマがタイヤチェーンに対応しているか、購入前に必ず確認するようにしましょう。
タイヤチェーンには種類があり、おもに素材によって分類されます。ここからは、チェーン規制非対応のスプレータイプを除いた、一般的なタイヤチェーンの種類を紹介します。
・金属チェーン
文字通り金属の鎖をタイヤに巻きつけるタイプ。鋼鉄製のものがほとんどです。タイヤチェーンのなかでは1番オーソドックスであり、圧雪、凍結などの路面状況を問わず高いグリップ力を発揮します。その確実性から、路線バスや宅配業車、郵便局の車両などでも使用されています。
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鎖なので収納時はコンパクトにまとめられますが、鋼鉄製なので重量は重くなります。チェーンの種類によっては振動が大きくなり、乗り心地が悪化するというデメリットもあります。
・樹脂チェーン
金属チェーンよりも乗り心地が圧倒的によく、比較的装着も簡単に仕上げられているのが、ゴムやウレタンで作られた樹脂チェーンです。金属チェーンに比べれば素材が柔らかいため走破性能は劣るものの、表面に短いスタッドが打ち込まれている製品が多く、圧雪や凍結路面にも対応できます。現在のタイヤチェーンではもっとも一般的な種類となります。
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金属チェーンに比べれば軽いことも特徴ですが、製品自体の折りたたみが困難なため、収納ケースなどが大きくかさばることがデメリットです。
・スノーソック
非常用として携帯しておくのなら、布製のチェーンも有効的です。北欧で誕生したスノーソックと呼ばれるチェーンは、特殊な繊維で織られた布製のカバーを、タイヤ全体にかぶせるようにして使用します。
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走行性能や寿命では金属製や樹脂製に劣るものの、緊急の脱出用などで考えれば十分な性能が期待できます。乗り心地が悪化する心配もありません。携行していても1番コンパクトで軽く、ラゲッジルームでも邪魔になりにくいでしょう。ただし、普通の舗装路面で使用すると、あっという間に破損してしまいます。路面に雪がなくなったら、すぐに外すようにしましょう。
■備えあれば憂いなし
このようにウインタータイヤとひと言でいっても、多くの種類が存在しています。携行するチェーンの存在も含め、どれが自分の走行に適しているのか判断が必要となります。そして、雪や氷の路面に対応したタイヤやグッズは年々更新され増えています。場合によっては、カーグッズショップのスタッフに相談したほうが、いい買い物ができるかもしれません。
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そして、忘れてはいけないのがワイパーです。冬用のワイパーゴムやブレード一体型ワイパーは、耐久性や低温対策に優れているため、通常の雨用ワイパーよりも払拭性能が向上しています。通常のワイパーでは、雪国で視界が遮られる可能性も考えられますので、タイヤと一緒に必ず交換するようにしましょう。
冬の路面変化には、多少オーバーすぎるくらいの装備がうまく対応できるときもあります。備えあれば憂いなしですので、適切なものを選ぶようにしましょう。
<文=青山朋弘 写真=ミシュラン/オートソック/青山朋弘>